崩れる通信

「崩れる本棚」創作コンテンツ用のブログです。

崩れる通信 No.15

さて。この時がやってまいりました。

明日は、第21回文学フリマ東京。

われわれ、全力を尽くし、配布します。

その前に、ひとつ読んでいって下さい。

一作目:そにっくなーす「精神科ナースが命を狙われた話」第4回。

マスクについての話。編者も仕事でお世話になる、というか着用が義務付けられているので、非常に身につまされます。

二作目、初登場となります、yoshiharu takuiさんの「そにっくなーすの深化、そして「最近の音」」。

これは自身のブログにて公開している、そにっくなーす氏のライブのレビューです。

文でも詩でも音楽でも活躍中のそにっくなーす氏の躍動が伝わってきます。

最後に、Pさんのふざけたエッセイ「Pさんぽ」。

それでは、明日会える人は明日会おう。さらばだ。

精神科ナースが命を狙われた話

第4回 マスクはすごい、という話

そにっくなーす

※この原稿は、ルネ小平にて行われた第二十一回感染対策講演会のそにっくなーす大先生の講話を書き起したものです。

皆さんこんにちは。からだほぐしはすみましたでしょうか。講演中寝てるやつどぎつい宿題出すから覚えとけよな。

はい、どうもどうも。無事に生きてるそにっくなーすです。さて皆さんはマスクをきちんとしていますか。なんでしているのですか。正しい使い方を知っていますか。使い方を間違えると感染予防どころか合併症までひきおこす、おそろしい医療用品、そして最も皆さんの身近にある医療用品である、マスクについて、今回はお話しましょう。

本来マスクは、人体の換気のほとんどを担っている口や鼻から、空気と一緒に微細な菌やらヴィールスやら異物が入っていくのを防ぎ、また流行性感冒などに罹患した際にヴィールスが出ていってほかのひとに感染させてしまうのを防ぐためのものです。医療機関ではそのほかにも食事の介助や、髭隠しや、表情隠しなどのあらゆる用途で使用されています。

マスクはコンビニやスーパーや薬局でもいろんな種類のものが売っていますね。おもに使いきりのものがメインでしょうね。小さい頃の給食のマスクは布製のもので、あてているガーゼがぽろぽろしてうざかったり、洗いすぎて縮んで丸まったマスクはカッコ悪かったりしていいイメージがない人でも、耳が疲れにくいマスクや息苦しくないマスクや化粧がおちにくいマスクなど最新技術をとりいれた現代のマスクには多少なりともポジティヴなイメージを持っていらっしゃると思います。

マスクの正しいつけ方をお教えしましょう。まず、間違えやすいのが表裏です。お手元のマスクをご覧ください。多くの使い捨てマスクは、ひもの付け根があるほうが内側になっています。でも真横にひもがついているタイプなどはわかりにくいですね。そういうときは、マスクのプリーツ部分を最大まで開いてみてください。マスクのプリーツは、感染予防効果をあげるために、人間の顔のカーブにフィットするようデザインされております。なのでプリーツを最大まで開くと、どちらかのむきに丸まっていこうとするので、そのまま顔に沿わせるような感じでつけると正しい向きで装着できます。あとは外側と内側で色が違うものなどもあるので、色があるマスクは色の濃い方を外側にしましょう。そしてマスクをするときにイチバン楽しいのが、鼻のワイヤーをくいっと折り曲げることですね。鼻が低い東洋人の方でも、いちどスネイプ先生の鉤鼻にマスクをあてるようなつもりになってワイヤーを中心でふたつに折りたたんでください。折ってから開いて当てるとぴったりと鼻にフィットし、感染予防効果がしっかり期待できます。一度使用したマスクはよっぽどのことでもない限り再利用は避けた方が賢明です。外側になにがついているか分かりませんから。

以上の正しい方法でマスクをつければ、新宿の喧噪のなかでおじさんの無遠慮なくしゃみや咳にさらされてもたぶん大丈夫。自分が無遠慮なくしゃみや咳をしたとしてもたぶん、大丈夫。飛沫感染のリスクを減らすことができます。

マスクは感染予防以外にもメリットがあります。

まずは保温。自分の息のにおいと眼鏡の曇りをすこしくらい我慢すれば、顔面が呼気によってあたためられ雪山で自転車に乗っていたとしても顔だけはあたたかいままでいられます。しかもマスクをしていると他人から見えるポイントは目と鼻筋だけなので、ノーマスクの時よりもちょっと可愛く見えたりなども可能。女の子がマスクありとマスクなしで街を歩くと、ナンパしてくる男の人数が三倍ほども違うとの統計が出ています。男性ですと髭を隠せるので、看護部長さんに「髭を剃れ」と怒られずにおしゃれ髭ファッションを楽しめるし、やくざだったりして顔におおきな傷があってもマスクをすればちゃんと隠せてしまうのです。

人間のノンバーバルコミュニケーションにおいてもっとも注目されがちである「顔面」を半分ほど隠すということ。これは大きな意味を持っています。とくに口を見せることはあらゆる文化圏において恥の象徴とされており、口を隠しておくことでつつましく感情をおさえた、落ち着いた印象を人に与えることができるのです。そうした印象は人間関係を円滑にしてくれます。マスクの中でいくら口をゆがめても、舌うちしたりファックファックとつぶやいても、目のまえの他人にはぜったいばれない。コミュニケーションをとる際のお互いのストレス緩和にとても役立ちますね。

そんなとっても便利なマスクですが、先にも述べたとおり使い方を間違えると重篤な合併症を引き起こす可能性があるのですが、その合併症はあまり知られていませんのでここで紹介しておこうと思います。

それは、マスク依存症というものです。さきにのべたマスク装着による恩恵に浴しすぎてしまい、マスクがないと仕事ができない、マスクがないと生活できない、マスクがないと不安、人前で食事ができないといった初期症状が生じます。臨床現場においても、なぜか、マスクをしながら仕事をすると対人恐怖を感じずに患者やスタッフと喋れるのに、マスクを外さなければならない状況に陥ったとたん自信を失って誰ともしゃべれなくなるナースがいるなどの事例が実際に起きています。この状態が続くと、マスクを外したくないから食事や飲水がじゅうぶんにとれない、耳の後ろのマスク紐が当たる部分の皮膚トラブル、当直医への電話でマスク越しの声がくぐもってしまいドクターに「何言ってんだかわかんねえよ」と怒られる、暑い中マスクをして酸欠になるなどの生命を脅かす重篤な症状があらわれます。重症化を防ぐにはやっぱり早期発見が大事です。ちょっとでもマスク消費量が増えたなと気付いたら、早めに受診をしてください。認知行動療法は一定の効果をあげていますので、臨床心理士に相談するのもテです。

マスクは便利。だけど、使いすぎはダメよ。

酔っ払いバタフライ

そにっくなーす率いる「酔っ払いバタフライ」2014年5月の文学フリマ東京から活動開始。看護師のほかに、バンドマンやら料理のうまいハリネズミやら乙女男子やらセンスいいたぬきやら天才デザイナーやらが属している。本は下北沢クラリスブックスにて委託販売中。

twitter:@sweetsonicNs

そにっくなーすの深化、そして「最近の音」

2015年11月5日のライブから

yoshiharu takui

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11月5日、高崎線の宮原駅(大宮の隣の駅)が最寄りのライブスペース「ヒソミネ」で、そにっくなーすのライブを観た。30分の持ち時間の中で、今引き出せるいちばんのパフォーマンスを発揮している姿が、とてもすがすがしかった。

この日のライブでは、そにっくなーすの歌声の音域が広くなっていて、低い声も高い声も、以前より1~2段階強く、広がりを持って出ているように感じられた。その理由を終演後に聞いてみると、マイクにリバーブ(残響)効果をかけることで響きを作る、今までのそにっくなーすのライブにはなかった試みのおかげなのだそうだ。

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ライブの中で最も強く目に焼きついたのは、この「影」。ヒソミネでは毎回、ステージ後ろのスクリーンに映像を投影することで、音と組み合わさった幻想的な効果を出している。曲に合わせて、さまざまに混ざり合った色が映し出される中、ステージの右端に映ったそにっくなーすのシルエットが、とても尖鋭に見えた。その光景は、大河ドラマ独眼竜政宗』のオープニングで、渡辺謙が演じる伊達政宗のシルエットがレーザー光線の中に浮かび上がる、勇壮で幻想的な映像を思い起こさせた。

強さと柔らかさ、その両方を持った光の中で聴いた「ありがとうはもういらない(文鳥コード)」。この歌が持つまっすぐで切実な言葉、強い悲しみや寂しさも感じさせる言葉が、ヒソミネの照明や影の中でいっそう強く響いた。

そにっくなーす - ありがとうはもういらない(文鳥コード)

白い壁を基調にした明るいヒソミネの空間では、居合わせた人との会話の中で「最近の音」について知ることができた。バースペースに置いてあったバンドのフライヤーのひとつに、「96kHz/24bitのハイレゾ音源でも配信中」という一文があったのだ。

CDを超える大きな情報量を持った「ハイレゾ配信」が、アンダーグラウンドで活動するミュージシャンにも、にわかに広がっている。そういった音楽の中には「CD文化に対するアンチテーゼ」があることを、リリカリリスというバンドのギターボーカル、のべたくみの話から知った。

以前は「CDを超える音質で音楽を聴きたい!」という声は、「いい音とはどんなものか」を真剣に考え、より良い音を求めるオーディオ愛好家や評論家に限られていた。オーディオメーカーもCDプレーヤーの技術を高めながら、CDの規格を超えた「SACD(スーパーオーディオCD)」を聴くことができるプレーヤーを高級機として展開していて、現在のCDプレーヤーの高級機では、SACDとCDの両方を高い質で楽しむことができる。

しかし、そういった流れとは別に、現在はPCで音楽を聴くことが当たり前になった。CDプレーヤーを持たない音楽の聴き方もあるうえに、1枚のCDを作ることにも大変なコストがかかる。それならCDの規格に落とすより、作る段階と同じ状態(CDの規格を超えた音源での製作)をそのまま聴かせよう。この流れが、アンダーグラウンドで活動するミュージシャンにも広がりつつある。

このことは、オーディオ機器と音楽制作現場の技術革新、作る側の意識の変化が複雑に混ざり合っていることを改めて知るきっかけになった。

これからも、アンダーグラウンドで活動する音楽、まだ知られていない音楽と接した感想と共に、より良い音の音楽を求めるための技術の変化を、同じように追っていきたいと思う。

Pさんぽ

第17回

Pさん

副将は練習試合敗退のショックを隠しきれず、シャワー室をこえて道場の奥の排気ダクトの横でさめざめと泣きながらうずくまっていた、さめざめと。別になんでもないさと、実際なんでもないかのように考えつつ、汗を流そうとシャワー室に向かい、他選手のシャワーしている音を聞いているうちにその音が涙を連想させて急に悲しくなってしまったのである。なぜ私とあろうものが砂消しなんかに。くそ。

道場まんがにありがちな、後に副将の彼女になる事になる女子マネージャーが、排気ダクトの臭いを逆に吸引し副将の位置をつきとめ、なぐさめにかかろうとしていたのだ。

「砂消しは『ピカるちゃん』等メラミンスポンジ系クレンジングスポンジと同じように、紙の表面を削ってまで消そうとする、消しのプロなのよ。チートだと思って、あきらめなさい」

「だが、負けは負けだ」

排気ダクトの裏にミラクルフルーツがなぜか雑草みたく雑に栽培されていて、ミラクルフルーツを食べた後に酸っぱいものを食べると甘く感じる。

ミラクルフルーツに含まれている特殊な多糖類「ミラクリン」が舌の感覚器官である味蕾に付着し、味覚を変質させる為だ。(続く)