崩れる通信

「崩れる本棚」創作コンテンツ用のブログです。

崩れる通信 No.33

こにゃにゃちわ。崩れる通信だよ。

あれから一週間。みなさん、どうお過ごしですか?

それなり?

一緒に、ガチャガチャ回しますか?

そうですか。

一作目、新連載!!!憂野『歪曲島の王』「一話 脱出」

二作目、新連載!!!オカワダアキナ、twitter上の、300字ss企画、第16回参加作『アンドロイドは暗室作業の夢を見るか?』

以上。オカワダアキナさんが、崩れる通信上では、初登場となります。

Pさんも、なんか気の利いた小説が書けたら、こっそり記事更新しておきます。

文学フリマが終わってから、ネット物書きの方の熱発が続いております。

ひらけ! 三点クーリング!

歪曲島の王

一話 脱出

憂野

自室で『粉』を使っているときだった。降ってきたのは。それは突然だった。紛れもなく、力だった。しかもただの力じゃあないと確信できるほどの熱量で、液が溜まった脳はカッカカッカと発熱して殴られたみたいだ。

『王の力』。無職でただなんの目的もなくだらだらドラッグキメてその刺激だけで生きてる人生に意味を見いだせない、ラリって読書して文字が泳いで出ていっちまうって叫んだ。そんな僕に降ってきた、肉に刻まれ馴染んでとっくの昔からそこにあったんじゃないかってくらい馴染んで、染み着いて離れなくなったそれは、『王の力』だった。

王の力を持っていても臣民がいないと王にはなれない。ラリって上下左右平衡バランスバラバラ椅子から転げ落ちるなんて無様な真似は、もう出来なくなっちまった僕は椅子から急進直立して覚悟は空きっ腹にぶち込んだ昆虫ゼリーの血がよく染んだ土が胃粘膜を傷つけ、消化液が胃液、が、胃粘膜を傷つけた消化のときに覚悟はもうすでに、覚悟はとっくに済んじまってた。

床に足が沈み込む。ずぶずぶずぶずぶ、アホみたいに。柔らかに覆われた足はゆったり落ちてカーペットの中に中に、奥へと。二点に集中して負荷がかかるからだ。落ち窪む。「負けて、負けてたまるかよ。」

右足を引きずり出し、右足を縁にかけ、右足に力をこめる。右足を軸に全身を持ち上げ、穴から、穴というより窪みだが、片足と腰あたりまでを引き抜く。力を入れた右足は沈む。カーペットにずぶずぶと。腰のあたりまでと右足が沈み腰のあたりまで埋まる、

「きりがない」。いい加減にしろ。

降雨しだし、次第に柔かったカーペットは粘性を帯び、沼状の、状態はカーペットよりは沼の性質に近い粘度で、部屋からの脱出、王の猛威の妨げだった。

植物園に、行ったことはなかった。これからも、ないだろう。僕は部屋の観葉植物が枯れた死骸、残骸、は乾燥している。火をつけた。燃やし、湿度などものともせず。焼けたは大抵のものだった。本棚、机、椅子、大抵のものだった。だが炎は王たる僕に指一本触れることはなかった。当然だった。必然だった。

階下への階段は脆く、泥が塗りたくられ、足下への注意が散漫になったその瞬間、口からだらだらと際限なく溢れていた、それに。口端から破れた皮膚に群がるうじ虫が溢れていた、わらわらと。「ちくしょう、ちくしょう。痒いったらありゃあしない。僕の肉を食って、蠅に?叩かれて死ぬだけだよ、おまえたちは。死肉に湧き、糞に集り、逃げ足ばかりが達者。

反吐が出るね!敗北者が。敗北者が。」

≪僕はまだ、死んじゃあいねぇんだ≫

毟って、毟って。頭髪のように口端から生え、垂れ下がったそれらを引きちぎり、床に叩きつけるも。指圧でペースト化したか実体がなかったか、うじなどいなかったのか、口端からは赤い液が活火山的噴出を、階段もひたひたと、ひたひたと。

「痛覚?ああ、冷静に思考を戻すのにはうってつけのやり方だ。」

ガンガンガンガン、白いコンクリート片の寄せ集めでできた無機質のを、頭に打ちつける。ガンガン。ガンガン。強く強く、激しく。壁はなんでもないような顔をして、そのまま直立している。砕けてもなんでもない、煉瓦は余っているからさ。微動だにしない。ぐらつきが不意に。倒れる。

どうした、早く状況を確認するのだ。ぼやぼやする視界。平衡感覚が戻っているのか、下と認めたその場所へ目を走らせるが可能だ。

なんてことはない、うじでも野菜ジュースでもない、ラリって、筋肉が弛緩して、過剰に分泌された唾液が階段まで届いただけだった。僕は階段に見下ろされているのが気に障ったのでいきおいよく起きあがる。潤滑油に、注意しながら。床に足をつき起きあがる。右、左。すでに居間にいた。父母がヒステリックな石像だった。すでに居間にいた僕は立ち上がった。父母は僕の右手を注視している。おかしいやつらだ、と、視点の軸に据えた右手には血が、鉄の液が、動物を動かす赤いアレが、べっとりと塗着していた。

ラットを握りつぶしたのだ、いつの日か忘れたが。ぎゅむ、と掴むと、ごわごわした毛がちくちくと指を刺した痛みになり、僕は力をこめた。じたばたともがく。生への醜い執着の表現だ。「このラットは、僕よりよっぽど表現者たる資格を持ち合わせてる!僕は、汚い鼠以下なのか!」薄汚い。ぎゅむ。キュッと泣いた。

そうだ、僕はやったのだ。

壁に叩きつけても反応がなく、あれ、これはおかしいぞ?と疑う余地もなく。念のためもう一度叩きつけてみた。反応なし。故障かな?と、頬からガラス片を一片、なるたけするどいのを引っ張り出す。ブルーシートに乗せ、ふたつに開くと、わかった。「ああ、死んだのか。つまらないな。いくら僕より優れていても、死んでしまってはなぁ。」内臓類を素手でぶちぶちと。だらだらと緩慢にブルーシートは紫に変色した。背骨が視認できると、つまんで、骨格を残して、表に出した。肉が肋骨にはこびりついていた。僕はそれらを、窓から投げ捨てた。残った内臓は食べた。皮は頭から被った。まだ温度があった。全面に感じ取れた。愛だった。包み込むそれは、愛としか形容できなかった。泣いて、泣いた。涙が出た。わんわん。「情けないゴミクズだ!『あれ』を飲み下せ!」机の引き出しを開けると、砂が茶封筒に封入されているのを発見した。さらに追加で喉の奥へと誘う。気持ちがよかった。

そうだ、僕は。

僕は、素手で鼠を殺したのだった。

父母が動き出す前に、ルナティックな笑みを浮かべていた。僕は強者だった。

月のように、顔面の半分に穴が空いた。穴の内側にはびっしりとフジツボが聳えていた。目がゆったりとしていった。頬がつりあがった。

【「僕は」「にっこりと」「笑みを浮かべた」「。」】

〔どうしたの……?〕母親が縋ってきた。「どうしたの!?」うるさい。母親とは、じゃまな存在だ。産むだけ産んで、自立しろとは、無責任な。必要がなかった。すべての母親を駆逐しろ。〔ねぇ、なにか言って〕狼狽えたようすで震えた声で言う。僕の表情が笑みのままだから、右手が血だから。【僕はこんな肉塊には、ならない。】産み出す者に罰を、敗北者には死を。「ねぇ、ねぇ!」あああもううるさい。さっきから。

「うるさいんだよ、蠅が」僕は左手のピストルで母親のこめかみを撃ち抜いた。

タァー…………ンンン…………。

硝煙、血飛沫。

ごとり。頭が落ちる音。

殺されていた。

僕の顔はそれでも、穏やかな笑みから微動だにしなかった。狂気の慈愛を帯びていた。王の慈愛。

「ちょっと出かけてくる」父親に向かってそう言った。

「どこに?あまり遅くならないようにね」皺だらけのはげ上がった醜い豚は言葉を話した。愛した人間も死んでしまえばただの肉だった。王の前でも平然としていてなんだかむかついたので、≪普段はあんなにやかましいのに、急に落ち着きやがって。≫

「死ね」僕は撃ち殺した。

さてと。

白いシャツは血だらけだったが、そのまま玄関のドアを開けて出かけた。足取りは、ラリってることを忘れたほど確かで、迷いがない、権威そのものだった。

【僕は支配に乗り出した。】

憂野

次回予告のコーナー。「外科医」

アンドロイドは暗室作業の夢を見るか?

Twitter300字ss企画 第16回参加作

オカワダアキナ

「すごい、画期的」

今年15になる甥が、僕のカメラを見て感激している。

「これならネットに流出しないし、フタを開けてフィルムを引っぱれば、完全に消せるんだね?」

2030年。息をするように端末はタップされ、何気ない瞬間は即時にクラウド保存される。家族や友人、見知らぬ人の、善意(と好奇と監視)のレンズに囲まれ、記憶は永遠に電子の海を彷徨う。銀塩カメラは逆説的に自由を獲得したらしい。

僕はちょっと得意になってこう言った。

「もし現像した思い出が憎たらしくなったら、火にくべてしまえばいいのさ」

けれども彼は首を傾げた。ああそうか。この町はとっくに花火も煙草も禁止で、家はオール電化。彼は炎に触れたことがないのだ。

オカワダアキナ

ザネリという屋号で活動中。

ジョバンニやカンパネルラになれない人たちの物語をつづっています。

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